書評
『月刊なごや』11月号(北白川書房)
『月刊なごや』11月号(北白川書房)
「地方都市に昔からある料亭は、歴史の生き証人」
旅をする際には必ずその土地の料亭を訪ねるという、随筆家の葛城三千子さん。
掛け軸や器などの美術品は歴史や文学を知る手がかりに、女将さんや仲居さんの服装や方言は、その地方独自の文化を伝える。
料亭は美しい味を楽しみつつ、日本の正統的な文化を一度にたやすく体験できる場所と綴ります。
料亭文化に縁が薄い世代に、この素晴しい日本の粋を伝えたいとの想いが執筆の出発点。
自らが撮影した写真をふんだんに使って、お客の立場から名だたる料亭を紹介しています。
また料亭へ行くにはどうすれば良いかなど、初心者向けの詳しいアドバイスも。
料亭を訪れて、奥深い日本文化の粋に触れてみたくなる一冊です。
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『週刊ホテルレストラン』10月28日号(オータパブリケイションズ)
『週刊ホテルレストラン』10月28日号(オータパブリケイションズ)
料亭には知的な好奇心を満たしてくれるものがあり、そのほかの料理店に行ったときとは比べものにならないほどの充実感を味わえる、と説く著者は、
日本の若い世代は海外の有名な高級料理店に足を踏み入れているのに、自国の〝料亭〟には行ったことすらないという奇妙な現象に杞憂し、同書を手掛けた。
「日本の料亭には本物の文化が凝縮した形で残っている」と言う著者自身が若かりしころもまた、その魅力が理解できなかったという。
ようやく気づいた「料亭の楽しみ方」を暦ごとに紹介。まるで旅をしているような描写が楽しい。
また、価格のランク表示があるなど、若い人を料亭に誘うひと工夫も感じられる。
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『陶説』11月号(日本陶磁協会)
『陶説』11月号(日本陶磁協会)
旅の折々に各地の料亭を食べ歩き、その佇まいや歴史、季節に応じて供される料理や器、書画や香り、様々な音さえ含めたもてなしの全体像をルポルタージュ風に紹介している。
対象は北海道から唐津までの二十八軒。巻末にはこれらを含めた二百軒余りの一覧を掲げ、所在地や電話番号、特色などをコンパクトに纏めてある。
いずれも葛城さんが実際に訪れたとあるから、取材は半端ではない。林屋晴三氏が「このような紀行集成は記憶にない」と推薦しておられるのもむべなるかな。
ちなみにこの二百軒のうち、筆者が知るのはほんの数軒に過ぎない。敷居が高いと尻込みする人向けに、予約の仕方から心付けの渡し方、季節毎に使い分けたい熨斗袋の意匠に至る細やかな心遣いや心得を箇条書きしてあるのも親切。
ルポの末尾に葛城さんが支払った一人当たりの料金を、店毎に一万円未満、一万円から二万円まで、二万円以上の三段階で表記してある。フレンチやイタリアン、中国料理の店にもずっと高値はあるし、訪れたあとの充実感は比較にならないほど高い、と葛城さん。
料亭とは急速に失われつつある日本の伝統文化の宝庫であるという。確かに馴染みの寿司屋や八百屋、電気店までが次々と姿を消し、ファミリーレストランや大型スーパー、家電量販店へと変貌しつつある。
料亭はこうした流れの対極にある一種の贅沢だろうが、手が届かぬ存在ではない。葛城さんが伝えたかったのは、この辺りからも知れないと感じた。
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